花の寺 圓藏院

2018.10.06 ちいさな法話 お墓について

お寺に遊びにきた子どもたちに、「お墓はなんのためにあるの?」と聞かれることがあります。「なんのためだと思う?」と問いかえすと、「うーん、おじいちゃん、おばあちゃんがいるからかな」と、ある子が答えました。この子の答えは、現代のお墓にたいする考え方をよく表しているのではないでしょうか。

日本の仏教寺院や墓地におおく建てられている長方形の石のお墓は、江戸時代後期から明治時代以降に流行した形式です。この長方形の墓石、じつは仏教伝来の形式ではなく、当時の武家思想でもあった儒教(じゅきょう)の影響が多大といわれています。儒教の始祖、孔子は、こんな言葉を遺しています。「能く人の性を尽くせば、天地と参たり」。人間は人としての道(性)を外れて生きれば、獣と同じである。誠実に人としての道を歩めば、天地と一体になり、ほんとうの人間になれる、という意味です。長方形の墓石は、天と地の間をつなぐ道徳(人として徳を積み善く生きる道)の象徴でした。

そのことは、転じて、先祖や生前の親への感謝の念、敬慕の念をこめて手厚く弔い、思い出を大切にすることで、生命を次の世代へとつないでゆく。自分も他者を大切にしながらより善く生き、家族の健康と繁栄を祈る、という日本の仏の教えへと結ばれてゆきます。お墓参りとは、故人との再会のみならず、そうした人としての道や生命の大切さを、参詣者自身をお手本に、子や孫たちに伝えてゆくことでもあります。

中世日本の庶民の仏教徒のお墓は、木や石の卒塔婆が墓石のかわりでした。それにもっともちかいのが、「空・風・火・水・地」をかたどる五輪の塔型の墓石でしょう。しかし、日本仏教の場合、お墓や墓石は、その時代々々の信仰、思想、文化を色濃く反映してゆきます。それは、仏教でいう「流転」(るてん)の思想のあらわれでもあるのです。